2017年04月05日

第2期電王戦第1局「PONANZAがもたらすは終焉か開闢か」

2017年4月1日、今回でラストとなる電王戦二番勝負の第1局の対局が行われました。
先手は絶対王者PONANZA。対プロの対局で負けなしの最強コンピュータです。
対する後手は、叡王戦トーナメントで優勝した現名人でもある佐藤天彦叡王。

以下、ポイントとなる局面について考えていきます。

△1四歩は緩手かもしれない

10手目△1四歩[1]
[1]

極論してしまうと、この手が緩手である可能性があります。
この手の意味は、△7四歩とした時の先手からの▲2四歩〜▲7四飛の横歩取りに備えている手です。
もしすぐに△7四歩とすると、▲2四歩△同歩▲同飛△2三歩*▲7四飛[2]と早くも一歩損になります。
しかし先に△1四歩としておけば、2三歩の局面で△7三銀でよく、▲2三歩には△1三角[3]で受かります。

*△3四歩▲同飛△7三銀もある

[2]
[3]
(△1四歩▲4八銀の交換を入れた場合)

ということで、△1四歩は習いある手筋であり、「常識」的な手であると言えます。
ただ今のコンピュータ将棋はその「常識」に疑問を呈しています。

つまり[2]の局面から△7三銀▲7六飛△6四銀▲2六飛[4]などした場合に、
先手の1歩得よりも後手の手得が大きいのではないか?と考えているようなのです。

私もその考えには肯定的で、特に後手番での横歩取らせはかなり有力だと思っています。
私が主に研究しているのは先手の初手が▲7六歩の場合に飛先を突かずに横歩を取らせる形です。
→「J流横歩取らせ戦法 基本図まで

考えてみれば、後手は実質ゼロ手で△7三銀と上がることができ、
先手は△7四飛と△2六飛の2手を費やしているため、
結果的に後手は3手ほど得をしていると考えて良いと思います。

[4]

結果論ではありますが、今回の対局では△1四歩は最後まで役に立つことはなく、
その1手を別の手に使ったほうが良かったという可能性が高いです。

もし仮に佐藤叡王が△1四歩の代わりに△7四歩と突き、PONANZAが横歩を取らない選択をしたとします。
その時△1四歩の一手分を△7二金にまわせたとすると、△7五歩[5]の仕掛けもかなり有力だったようです。

[5]

以下、▲同歩△9五歩▲同歩△9七歩▲6五歩△7三銀▲9七香△9八角▲2九飛△8七角成▲8五歩△同飛▲7六角
△7八馬▲8五角△6八金▲4八玉△6七金[6]が予想され、ほぼ互角の分かれだと思います。

[6]

△3五飛ではなく△3四飛

ニコ生の解説で糸谷先生がちらっと見解を述べられていましたが、
26手目△3五飛では△3四飛の方が勝るのではないかと思います。
私が初手▲2六歩に対して横歩取らせを採用していないのもこの筋があるからです。

以下、▲7六歩(△7五歩〜△8四飛を防ぐ)△5二玉▲4六銀△7二金▲3七桂△1五歩[7]の局面は後手も悪くないでしょう。
佐藤叡王としては歩越し飛車で狭く角道が塞がるのを嫌ったのだと思いますが、
▲4六銀をさらに先手で上がられるは癪ですね。
PONANZAが手得で理想形を築き、佐藤叡王が無理攻めをせざるをえなくなったということを考えると、
ひとつのターニングポイントだったと思います。

[7]

△6四銀は疑問

30手目の△6四銀も疑問手だったかもしれません。
というのは、このあとの展開で角を交換して▲6六歩[8]の切り返しが見事すぎたからです。

[8]

この手で先手は▲7七桂〜▲6五歩で銀をバックさせる手や、
6七銀の好形を築く手が可能になっています。

では△7三桂と▲6五歩を防ぐのはどうでしょう。
これには桂を跳ねずに▲6五歩[9]とし、
△同桂には6六歩、△同銀には▲7七桂の両取りが痛いのです。

[9]

そこで後手は△8四飛と早逃げしましたが、結局あとで▲6五歩に△7三銀と下がらされており都合2手損になっています。
先手は▲7七桂と跳ねても6七銀型を作り、桂頭をカバーできるのが大きいですね。
そういう意味でも▲6六歩は良い手だったと思います。

後手としては△6四銀に代えて△7二金などの手を指しておいたほうが良かったのでしょう。

仕掛け以降は勝負どころなし


佐藤叡王は42手目で△7五歩と仕掛けましたが、
以降後手がよくなる展開はなさそうです。

1歩得しているので端攻めというのは分かるのですが、
たくさん手損した上、桂も使わず、右辺の金銀は壁形で遊び駒、
この状況で後手が勝てる理屈が見当たらないのです。

佐藤叡王としては自陣の陣形整備をしたいが、
先手にさらに好形を築かれた上で攻められたら勝ち目がないという判断なのでしょう。
つまりこの時点でPONANZAの作戦勝ちであり、上記のようなポイントで工夫する必要があったと言えそうです。

PONANZAの得意技「ポナンザ角」

本局でも登場しましたが、PONANZAは駒取りに▲6六角や▲4六角と打つことが多いです。
特に対プロ戦ではこの手を指して勝利しているパターンが多く見受けられます。
これは逆説的に人間がこういう手を軽視しているとも言えるでしょう。

ということでこの角打ちを「ポナンザ角」と呼んでみようかと思います。
twitterでは4六、6六の地点をポナゾーンとしましたが、こちらのほうがしっくりきますね。


(57手目▲6六角)


(先後反転、プロvsコンピュータ合議マッチ)


本局から学ぶべきこと


(1)

この図で△7五歩の仕掛けは成立しない。
また後手から他に指したい手もないことから、この図は先手の理想図と考えて良い。

CnT.png後手の△6四銀に対しての先手陣の形が柔軟性、進展性に富んでおり有力である。「歩越し銀には歩で対抗」という格言はやはり有効なのだろう。






(2)
あいがかりにおいて、△1四歩のように横歩を取らせない手法が本当に必要なのか?
△7四歩〜△7三銀から後手が積極的に動く作戦についてもっと研究をする必要があるだろう。


このような図について真剣に考える時が来ているのかもしれない。

(3)
持ち駒は温存せずにどんどん盤面に打ったほうが良いのかもしれない。
本局でポナンザは角や銀を飛車に当ててどんどん打って盤面を制圧している。
駒を手持ちにして牽制するよりも、手得で盤面に置くことで確実なリードが奪える可能性がある。
特に「ポナンザ角」のように角を攻守に利かせられる場合は生角でも十分な効果が期待できる。

PONANZAがもたらすものは

今回の対局では佐藤叡王が従来の将棋界の歴史、常識をぶつけたのに対し、
PONANZAが見事にそれを覆してしまったという印象を受けます。

PONANZAが将棋を終わらせる終焉の使者になるのか、
人にとって将棋の理解を深めるためのブレイクスルーをもたらす開闢の使者になるのか。
電王戦第2局がどんな内容になり、人々がそれをどう受け止めるのか。
今後の将棋界にとって非常に重要な一局になりそうです。

その注目の第2局は5月20日に世界遺産である姫路城にて行われます。
また佐藤叡王も出演する第1局の振り返り番組が4月9日にニコ生で放送されますので要チェックです。

※図面の作成にはShogipicを使用させていただきました。



posted by J at 22:30| Comment(0) | 他戦研究 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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